退職祝いを買うところまでは決まったのに、レジ前で「のしはどうされますか」と聞かれて手が止まる。表書きは「御祝」でいいのか、「御礼」なのか。水引は蝶結びなのか結び切りなのか。名前は自分の名前か、部署名か。迷う場所はだいたい決まっています。
結論から言うと、退職祝いののし紙は紅白の蝶結び+表書き「御礼」を選んでおけば、相手の退職理由がどうであっても失礼になりません。三越伊勢丹も高島屋も、退職の贈り物には紅白の蝶結び(もろわな結び)を挙げています。例外は結婚退職だけで、このときだけ紅白の結び切りに変わります。
この記事では、百貨店とギフト各社が公式に示しているマナーだけを根拠に、退職理由別の表書き、目上の人に使ってはいけない1語、名前の書き方の分岐、内のしと外のしの選び方までを順番に整理します。贈答のしきたりには地域や家ごとの違いがあるため、断定できない部分はそのまま「割れている」と書きます。
・退職祝いののし紙で迷わないための「紅白蝶結び+御礼」という基準
・定年・結婚・転職・中途、退職理由ごとに変わる表書きと水引
・目上の人に使うと失礼になる表書きと、その代わりに使える言葉
・個人・連名3名・4名以上でまったく変わる名前の書き方
・手渡しと配送で使い分ける内のし・外のしと、短冊のしの位置づけ
退職祝いのし紙は「紅白蝶結び+御礼」で外さない

迷ったときに選ぶべき組み合わせは決まっている
退職祝いに掛けるのし紙は、紅白の蝶結びの水引に、表書き「御礼」。これが最も事故の少ない組み合わせです。カタログギフトのハーモニックは「退職祝い掛けるのし紙の水引は紅白蝶結びが基本」と明記し、表書きについても「基本的に御礼としておけばマナー違反にはならない」としています。ギフトコンシェルジュ〔リンベル〕も同じく、定年退職・中途退職・転職のいずれでも御礼を無難な選択として挙げています。
なぜ御礼が強いかというと、御礼は相手の状況を問わない言葉だからです。「御祝」は祝う対象があって初めて成立するため、退職の事情が病気や介護、家庭の都合だった場合に浮いてしまいます。一方で御礼は、これまでの働きに対する感謝という意味しか持たないので、どんな辞め方でも成立します。
使い分けの目安はこうです。定年まで勤め上げた上司や、円満に次の会社へ移る同僚には「御礼」。人づてに聞いただけで事情がはっきりしない相手にも「御礼」。逆に、本人が明るく「第二の人生を始めます」と話しているなら「御退職御祝」まで踏み込んでもかまいません。注意点は、御礼を選んだ結果として気持ちが弱く伝わることはない、という点です。表書きは短い定型句なので、感謝の具体は同封するメッセージカードで補います。
のし紙=のし(のしあわびの意匠)と水引が印刷された贈答用のかけ紙で、慶事に用いるもの。かけ紙=より広い言い方で、水引だけが印刷された弔事用のものも含みます(三越伊勢丹)。高島屋も「弔事のときは熨斗が印刷されていないので、のし紙とは言わず掛紙という」と説明しています。退職祝いは慶事なので、のし付きの「のし紙」を選びます。
のし紙・掛紙・熨斗は、それぞれ別のものを指す
「のし」という一語が、贈り物の場面では3つの意味で使われています。紙全体を指す「のし紙(掛紙)」、右肩の飾りを指す「熨斗」、そして紐を指す「水引」。この3つは別物で、店頭で「のしをつけますか」と聞かれているのは通常、のし紙全体のことです。
高島屋の説明によれば、熨斗は「のし鮑(あわび)」の略で、あわびの身をそいで干したものを添えて「肴も添えてお贈りします」という意味を表したのが起こりです。現在の折り熨斗は紅白の紙を折り、中に短冊型の黄色い紙片を包み込んだ形で、この黄色い部分が本来ののし鮑にあたります。飾りのしは婚礼用、両折りのしと片折りのしは慶事一般に使われますが、どの場面でどれを使うという決まりは特にありません。
この違いを知っておくと、注文画面の選択肢が読めるようになります。「のし紙の種類」で紅白蝶結びを選び、「表書き」に御礼と入れ、「名入れ」に贈り主を入れる、という3ステップに分解できるからです。落とし穴は、通販の入力欄で表書きの初期値が「御祝」のまま送信されてしまうこと。確認画面でプレビュー画像が出るショップなら、水引の形と文字を必ず目で確かめてから確定します。
定年退職に「結び切り」を使う流儀も残っている
意外と知られていませんが、定年退職の掛紙について、高島屋のご贈答マナーは「のしあり 紅白5本蝶結びまたは結び切り」と、両方を併記しています。蝶結び一択ではないのです。
理由は、定年退職の受け止め方が二通りあるからです。人生に一度きりの区切りと考えれば、繰り返さない意味を持つ結び切りが合います。第二の人生の出発点と考えれば、何度あってもよい慶事に使う蝶結びが合います。ハーモニックは後者の立場で「定年退職は多くの人にとって人生一度きりのことだが、水引は紅白蝶結びを使用するのが正しいマナー」と踏み込み、退職後の再就職も増えている点を理由に挙げています。
実務上どちらを選ぶかというと、職場から贈るなら蝶結びが安全です。三越伊勢丹の定年退職ページも紅白もろわな結び(蝶結び)ののし紙を挙げており、百貨店の店頭在庫も蝶結びが標準になっているためです。結び切りが視野に入るのは、地域の慣習として結び切りが根づいている場合や、家族が節目の記念品として贈る場合。注意したいのは、迷いを相手に説明する必要はないという点です。どちらの流儀にも根拠があるので、選んだほうで堂々と渡して問題ありません。
辞める理由が変われば、表書きも水引も変わる
定年退職は「御退職御祝」まで踏み込める
定年退職は、表書きの選択肢が最も広い場面です。高島屋は掛紙の表書きとして、御退職御祝、退職之記念、御定年御祝、御退官御祝(公務員の場合)、御挂冠御祝(官職を辞める場合)、御餞別、御贐(おはなむけ)、記念品、御祝、御礼、謹呈(会社や団体からの場合)を挙げています。三越伊勢丹も御退職祝、御贐、御退任祝、御退官祝、御祝、御礼を並べています。
選択肢が多いぶん、決め手は贈り主が誰かです。会社や団体としてまとまった記念品を贈るなら「謹呈」や「記念品」、部署の有志なら「御退職御祝」、個人として感謝を伝えたいなら「御礼」。公務員として定年を迎える相手には「御退官御祝」という専用の言葉があります。
使い分けの注意点は、表書きの文字数です。高島屋は、四文字の表書きは「死文字」といって気にする方もいる、と注記しています。「御退職祝」が気になる場合は「御退職御祝」と五文字にするか、二行に分けて書くと収まります。もう一点、退職と同時に長寿の節目を迎える相手に、退職祝いと還暦祝いを一枚ののし紙に押し込むのは避けます。名目が二つ混ざると、どちらの祝いも印象が薄くなるためです。
結婚退職だけは紅白の結び切りに変わる
寿退社と呼ばれる結婚退職は、退職祝いの中で唯一、水引が変わる場面です。ハーモニックは「結婚退職の水引は一度きりで良いお祝い事なので紅白結び切りを利用し、表書きは御結婚御祝と記して贈るのが一般的」と説明しています。リンベルも結婚退職の水引を結びきりとし、表書きは御礼・感謝を挙げています。
根拠は水引の意味づけです。高島屋の解説では、結び切りは片方を引いてもほどけない結び方で、二度と繰り返されないようにという意味が込められており、結婚祝いと弔事はすべて結び切りを使います。婚礼では夫婦水引といって、水引を10本にするのが決まりです。三越伊勢丹も結婚祝いには紅白十本ま結び(結び切り)に「壽」と説明しています。
迷いやすいのは、職場の同僚から贈る場合にどこまで結婚祝いに寄せるかです。退職への感謝を主に伝えたいなら紅白の結び切りに「御礼」、結婚そのものを祝いたいなら10本の結び切りに「御結婚御祝」。落とし穴は、蝶結びののし紙で用意してしまうことです。結婚に関わる贈り物に蝶結びを使うと「何度あってもよい」という意味になるため、この一点だけは間違えないようにします。なお、結婚祝いとしてすでに別途贈っている場合は、退職祝いは「御礼」に徹したほうが重複しません。
| 退職理由 | 水引 | 表書きの例 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 定年退職 | 紅白5本蝶結び(結び切りの流儀もあり) | 御退職御祝/御定年御祝/御礼/記念品 | 高島屋・三越伊勢丹 |
| 結婚退職 | 紅白の結び切り(婚礼は10本) | 御結婚御祝/御礼/感謝 | ハーモニック・リンベル |
| 転職・独立 | 紅白の蝶結び | おはなむけ/御礼 | リンベル |
| 中途退職 | 紅白の蝶結び | 御礼/感謝(御祝は避ける) | リンベル・高島屋 |
転職・独立には「おはなむけ」、中途退職は御祝を避ける
次の職場や自分の事業に向かう相手には、リンベルが挙げる「おはなむけ」が合います。漢字では御贐と書き、高島屋も転勤や海外赴任の表書きとして御餞別と並べて挙げています。前へ進む人を送り出す言葉なので、退職という後ろ向きの響きを含まないのが利点です。
一方、中途退職では「御祝」を外します。リンベルは「事情を知らなければ御祝は避け、御礼や感謝などのねぎらいの言葉を選ぶとよい」とし、高島屋も定年退職の項に「途中退職の場合、御祝は不適当」と注記しています。健康上の理由や家庭の事情で辞める人にとって、祝という文字は場違いに映る可能性があるからです。
実務では、退職理由を本人に確認しづらい場面が多いはずです。その場合の判断基準はシンプルで、「本人が公表している範囲でだけ判断する」。全社メールに「定年退職」と書かれていれば定年として扱い、退職としか書かれていなければ御礼にしておく。噂で聞いた事情を表書きに反映させると、知っているはずのないことを知っていると伝わってしまいます。挨拶の場面ごとののしの決め方は、こちらの記事でも整理しています。

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「御餞別」は、上司に使うと失礼になりうる1語

目上の人に御餞別を使わない理由
退職祝いののしで最も事故が起きやすいのが、この一語です。ハーモニックは「目上の方に贈る場合、御餞別という表書きは失礼にあたるので、御祝・御礼・おはなむけと記載する」と明記しています。三越伊勢丹も表書きの一覧に御餞別を載せたうえで、「御餞別は、通常、目上の方には用いません」と注記しています。
背景にあるのは、餞別が本来「目上から目下へ渡す見送りの金品」という位置づけで使われてきた言葉だという点です。同じ品物でも、表書きが御餞別になった瞬間に、贈り主が上の立場から渡しているという構図が生まれます。長く指導を受けてきた上司に渡す紙としては、噛み合いません。
代わりに使えるのは、御礼、おはなむけ(御贐)、御祝の3つ。阪急百貨店のコラムは、個人から上司に贈る場合の表書きとして「おはなむけ」または「御礼」を挙げています。注意点として、御餞別そのものが誤りというわけではありません。後輩や部下、同年代の同僚を送り出すときには通用します。相手が上か下かで意味が変わる言葉だと覚えておくのが実用的です。
通販サイトの表書き選択肢には「御餞別」が並んでいることがあります。相手が上司・先輩・恩師にあたる場合は選ばず、「御礼」か「おはなむけ」に変更してください。書き損じたのし紙を修正液や二重線で直すのも非礼にあたります(リンベル)。書き直しがきかない場面を避けるため、名入れは店側に依頼するか、下書きしてから清書します。
複数名でまとめて渡すときは事情が少し変わる
御餞別が完全に使えないかというと、そうではありません。阪急百貨店のコラムは、上司への贈り物について「御餞別は複数名での贈呈に限定される」という整理を示しています。個人名で渡すと上下関係がそのまま出てしまう言葉も、「営業部一同」のような集団名になると、送り出す側の総意という色が濃くなるためです。
とはいえ、集団名なら安全という保証はありません。三越伊勢丹の注記は贈り主が誰かを区別せずに「通常、目上の方には用いません」と書いています。集団で贈る場合でも、相手が役職者なら御礼にしておくほうが説明が要りません。
実務的な決め方はこうです。相手が自分より上の立場なら御礼、同格または下の立場で、しかも複数名でまとめるなら御餞別も可、個人で渡すなら相手の立場を問わず御礼かおはなむけ。この3行で、ほぼすべてのケースが処理できます。落とし穴は、幹事が独断で表書きを決めてしまうこと。集金に参加した全員の名前が「一同」に含まれるため、事後に「あの表書きはどうなのか」と話題になることがあります。表書き案は集金の連絡と一緒に共有しておくと揉めません。
失敗パターン:役員に「御餞別」で渡してしまった
起きやすい失敗の1つ目が、この表書きの取り違えです。よくある流れは、贈り物を通販で手配するときに「退職」で絞り込み、表示された表書き候補の先頭にあった御餞別をそのまま選んでしまうケース。のし紙は箱の中に入って届くため、渡す直前まで文字を見ないまま、送別会の場で開封されて気づくことになります。
原因は、退職という用途の中に、目上向けと目下向けの表書きが混在して並んでいることです。サイト側は用途で分類しているだけで、相手の立場までは判定していません。対策は2つ。注文時に表書きを手入力できるショップを選び「御礼」と自分で入れること、そして届いた箱を渡す前に一度開けて、のし紙の文字と名前を確認することです。
もし当日に気づいた場合は、その場でのし紙を外して無地の包装で渡すほうが穏当です。文字が違うのし紙を掛けたまま渡すより、体裁を落としてでも言葉で感謝を伝えたほうが伝わります。渡したあとで気づいたときは、追いかけて謝罪するより、後日の礼状で感謝を書き直すほうが相手の負担になりません。
水引は5本が基本、10本は婚礼だけ
「5本まとめて1本」と数える理由
水引の本数には数え方の約束があります。高島屋の解説では、水引は5本(3本・7本もあります)まとめたものを1本と数え、結納や結婚のときは夫婦水引といって、夫婦は2人で1組という意味合いから10本にします。三越伊勢丹も慶事は奇数(3・5・7本など)が一般的としています。
退職祝いで使うのは5本です。高島屋が定年退職の掛紙に「紅白5本蝶結びまたは結び切り」と書いているとおりで、印刷されたのし紙も5本が標準になっています。3本は簡素な贈答、7本はより丁寧な贈答に使われますが、退職祝いで本数を増やして格を上げる必要はありません。
気にすべきなのは、むしろ10本を使わないことです。10本は婚礼専用の本数なので、定年退職の記念品に10本の結び切りを掛けると、意味が食い違います。通販で「結び切り」を選んだときに10本のデザインが割り当てられることがあるため、結び切りを選ぶ場合はプレビューで本数を確認します。注意点として、地方の風習により水引の結び方が異なる場合があると高島屋自身が断っています。地元の慣習が明確な地域では、そちらを優先して差し支えありません。
紅が右、濃い色が右という並びの決まり
水引の色にも並び順があります。高島屋の説明では、紅白の場合は紅が右・白が左、金銀の場合は金が右・銀が左で、あらゆる場合で濃い色が向かって右になるように結びます。市販ののし紙は正しい向きで印刷されているので、通常は意識しなくて済みますが、水引を自分でかける場合や、短冊を貼る場合には効いてきます。
色の使い分けも整理しておくと迷いません。金銀は婚礼および長寿の祝い、紅白は一般慶事と婚礼、紅は還暦、黒白・黄白・双銀は弔事用です。退職祝いは一般慶事なので紅白を選びます。金銀を選ぶと婚礼か長寿祝いの色味になり、送別会の場では浮きます。
使い分けの注意点は、還暦と定年が重なるときです。60歳での定年なら紅の水引を使う還暦祝いの体裁も選べますが、職場から贈るなら紅白のままが無難です。還暦祝いは家族が贈るという色合いが強く、職場の贈り物で年齢を前面に出すと、受け取る側が身構えることもあります。年齢に触れる要素は、のし紙ではなくメッセージに寄せるほうが安全です。
熨斗を付けない品もある
のし紙の「のし」は飾りの部分を指すため、これを付けない場面があります。高島屋の解説によると、弔事(仏教)では生ぐさものを断つ・引き伸ばしたくないという意味から熨斗は付けません。鮮魚や肉のように、それ自体が生ぐさものである品にも本来は付けません。
退職祝いの実務で関わるのは、贈る品がハム・海鮮・生鮮の詰め合わせだった場合です。前述のとおり、現在は中元・歳暮・内祝などで生ぐさものにも熨斗を付ける運用が一般的になっているため、店の案内に従えば問題ありません。理屈を知っておくと、店頭で「こちらはのしなしの掛紙になります」と言われたときに慌てずに済みます。
もう一つ、のし紙が使いにくい品もあります。花束やアレンジメント、大型の家電などです。高島屋は、家具や大型電気製品・生鮮食品などのように掛紙や水引を掛けにくい場合には、ボール紙などを台紙にして奉書や掛紙を巻き、適切な文字を入れて品物の右肩に添える方法があると説明しています。注意点は、リボンを結ぶ場合はリボンと掛紙を併用しないというルールです。ラッピングを華やかにしたいなら掛紙は外し、メッセージカードで名目を伝えます。
名前は誰の名で書く?個人・連名3名・4名以上の分岐
個人で贈るならフルネーム、下段に小さく
名入れの基本は、上段に表書き、下段にやや小さめに氏名です。高島屋は「上段の表書きに対して、下段に小さめに書きます。目下の人には姓だけでも構いません」と説明しています。三越伊勢丹も「個人で贈る場合や目上の方への贈答はフルネームで記名するのが丁寧」としています。
退職祝いの場合、相手が上司や先輩であることが多いため、フルネームが基本になります。姓だけにすると、同姓の社員が複数いる会社では誰から贈られたのか特定できません。退職後に整理する場面を考えると、フルネームのほうが親切です。
肩書きを入れたい場合は、名前の右側に小さく会社名や部署名を記入します。社外の取引先へ贈るときは、社名を添えないと誰からの品物か伝わらないため、社名+氏名が実用的です。注意点は文字の大きさで、氏名が表書きより大きくなると自己主張が強く見えます。表書きより一回り小さく、水引にかからない位置に収めるのが決まりです。名刺を貼る方法もありますが、高島屋は「名刺を貼る場合はあくまで略式」と位置づけています。
連名は3名まで、右が目上
複数人で贈るときの上限は3名です。高島屋は「目上の人の名前を右から左へ順に書き入れます。連名で3名程度までとします」と示しており、リンベルも3名までは最も目上の人を中央に、左に順に配置すると説明しています。三越伊勢丹も代表者名を中央に、左右に続けて年長順に記すとしています。
順序の考え方は、右が上位、左に向かって下位です。部長・課長・主任の3名で贈るなら、右から部長、課長、主任と並びます。年次だけで並べると役職と食い違うことがあるため、社内の序列に合わせるのが無難です。
3名を超えると、そもそも文字が小さくなって読めなくなります。実用面でも、のし紙の下段に収まるのは3名が限界です。注意点として、贈り先の宛名を左側に入れる場合は並び順が逆になります。高島屋は「連名で左手に宛名を入れる場合、目上の人の名前を左から右へ順に書き入れます」と説明しています。宛名を入れるかどうかで並びが反転するため、店に依頼するときは「宛名あり・なし」を先に決めておきます。
| 贈り主 | のし下の書き方 | 補足 |
|---|---|---|
| 個人で贈る | フルネームを中央に | 社外へはフルネームの右に社名・部署名 |
| 2〜3名で贈る | 右から目上順に連名 | 宛名を左に入れる場合は並びが逆になる |
| 4名以上で贈る | 「〇〇一同」「〇〇有志一同」 | 全員の氏名を書いた紙を中に入れる |
| 代表者名で贈る | 代表者を中央、左に「外(他)一同」 | 他の人の氏名は別紙で中に入れる |
| 会社・団体で贈る | 社名+部署名(表書きは謹呈も可) | 社名と部署名は2行、部署名を大きく |
4名以上は「〇〇一同」+別紙が正解
4名以上になったら、個々の名前を書くのをやめます。高島屋は「贈り主が連名で多人数の場合は、会社名、部署名、グループ名など〇〇一同と書きます。有志一同と書く場合は全員の氏名を書いた紙を中に入れます」と説明しています。リンベルも4名以上は「〇〇一同」または「〇〇有志一同」と一行で表記し、全員の名前は別紙に記載する、と同じ書き方を示しています。
「部署一同」と「有志一同」の使い分けにも意味があります。部署全員が参加しているなら部署名+一同、参加者が一部なら有志一同。参加していない人の名前まで含んでしまうと、後で気まずさが残ります。
別紙は、白い紙に氏名を縦書きで並べたもので十分です。序列順に並べ、包装を開けたときに見える位置に入れます。注意点は、この別紙が抜けやすいこと。誰から贈られたのか特定できないまま、退職者が礼状の宛先に困る場面が起きます。幹事は、集金リストをそのまま清書して同封するところまでを一つの作業として扱ってください。渡し方そのものの作法は、こちらの記事で詳しく整理しています。

玄関で「これ、どうぞ」と紙袋ごと差し出したあと、相手が一瞬「あ、ここで受け取っていいのかな」という顔をした——手土産の渡し方でつまずくのは、たいていこの数秒です…
筆記具は毛筆か筆ペン、書き損じは書き直す
のし紙に文字を書くときの道具は決まっています。高島屋は「毛筆で書くのが正式です。万年筆、ボールペンは避けます。楷書が一般的です」と示し、三越伊勢丹も毛筆や筆ペンが望ましいとしています。リンベルは、筆と黒い墨、黒の筆ペン、黒のサインペンを挙げています。
理由は線の太さです。ボールペンの細い線では、水引と釣り合わず文字が痩せて見えます。黒のサインペンが許容されるのは、ある程度の太さが出るためです。慶事は濃い黒で書くのが基本で、薄墨は弔事に使うものなので取り違えないようにします。
書き損じたときの扱いも押さえておきます。リンベルは「修正液や二重線などは非礼にあたり、書き間違えたら新しく書き直すのがマナー」としています。予備ののし紙を1枚多くもらっておくと安心です。字に自信がない場合は、購入した店で名入れを依頼するのが最も確実で、百貨店やギフト専門店では無料で対応していることが一般的です。注意点として、名入れを依頼すると当日渡しに間に合わないことがあるため、送別会の日程から逆算して手配します。
内のし・外のし・短冊で、渡し方の印象が変わる
手渡しは外のし、配送は内のし
のし紙の掛け方は2種類あります。三越伊勢丹は「手渡しの場合は外のし(包装の外側にのし紙をかける)が礼儀で、相手に見える形でお祝の意を示せる」「配送や宅配で贈る場合は、配送伝票によりのしが汚れたり剥がれたりするため、箱にのしをかけてから包装する内のしが一般的」と説明しています。
退職祝いは送別会や最終出社日に手渡すことが多いため、基本は外のしです。その場で名目と贈り主が読み取れるので、受け取った本人が「誰から何の名目で」を把握しやすくなります。複数の人から品物を受け取る場面では、この読み取りやすさが効きます。
一方、退職後に自宅へ送る場合や、遠方の相手に贈る場合は内のしにします。伝票を貼る位置とのし紙が重なり、文字の上に送り状が載ってしまうためです。注意点は、内のしにすると開封するまで名目が見えないこと。カードを添えて「御礼」の趣旨を書いておくと、包みを開ける前に伝わります。判断に迷ったら、相手がどこでその箱を開けるかを想像して選びます。
短冊のしは略式だが、使える場面がある
のし紙を掛けにくい品には、短冊という選択肢があります。高島屋は「家具や大型電気製品・生鮮食品などのように掛紙や水引を掛けにくい場合には、ボール紙などを台紙にして奉書や掛紙を巻き、適切な文字を入れて品物の右肩に添えます。また、掛紙を簡略化した短冊もあります」と説明しています。
短冊は幅の狭い紙に水引と表書きが印刷されたもので、包装の右上に貼って使います。全面にのし紙を掛けるより簡略な体裁になるぶん、包装のデザインを活かせるのが利点です。近年はブランドの包装紙をそのまま見せたいギフトが増えており、短冊で対応するケースが増えています。
使い分けの目安は、相手との距離感です。上司や取引先など格式が要る相手には、のし紙をきちんと掛けた体裁を選びます。親しい同僚や後輩へのカジュアルな贈り物、包装のデザイン性が高い品には短冊で十分です。注意点は、短冊はあくまで略式だという点。格式を求められる場面で短冊だけにすると、簡素に見えることがあります。判断に迷う相手なら、のし紙を掛けたほうが後悔しません。
失敗パターン:宅配で送るのに外のしを選んだ
起きやすい失敗の2つ目が、掛け方の選択ミスです。退職後の自宅宛に贈り物を発送する際、「せっかくだから名目が見えるように」と外のしを指定すると、配送伝票がのし紙の上に貼られ、到着時には表書きの一部が隠れているか、輸送中の擦れで紙が破れていることがあります。
原因は、外のしが「手渡しで見せる」ための掛け方だという前提が抜けることです。三越伊勢丹が内のしを配送向けとしているのは、見た目の好みではなく、伝票と包装の物理的な干渉を避けるためです。対策は単純で、発送を伴う贈り物は内のしを選び、手渡しできる贈り物だけ外のしにすること。
すでに外のしで発送してしまった場合は、追いかけて訂正する必要はありません。到着を見計らって「のしが読みにくくなっているかもしれない」と一言添えたメッセージを送れば十分です。もう一つ避けたいのは、外のしのまま紙袋に入れて渡し、袋ごと手渡してしまうこと。紙袋から出して渡すのが基本で、袋は持ち帰ります。ハーモニックも、品物を風呂敷または紙袋から取り出して渡し、紙袋は持ち帰ると説明しています。
のしを決める前に固まっている2つのこと
金額の目安は「誰が贈るか」で決まる
のし紙の体裁は、金額と贈り主のかたちが決まってから考えるとスムーズです。ハーモニックが示す目安は、同僚に個人で贈る場合が3,000円~10,000円、上司に個人で贈る場合が5,000円〜20,000円、親戚やその他身内が5,000円~10,000円、友人・知人が3,000円~5,000円。三越伊勢丹は、上司・目上に個人で贈るなら5,000円〜20,000円程度、部署や有志でまとめるなら一人3,000円〜5,000円を目安に全体20,000円〜50,000円前後としています。
阪急百貨店のコラムは、複数名で回収する場合の一人あたりを1,000円〜5,000円程度とし、アルバイト・パートは社員より少ない金額が目安としています。家族・親族から贈る場合は、三越伊勢丹が10,000円〜30,000円以上も検討されるとしています。金額に幅があるのは、地域や職場、付き合いの度合い、年齢で適正が動くからです。
金額が決まると、のしの選択もほぼ決まります。個人で数千円なら短冊でも成立し、部署でまとめて高額の記念品を贈るなら、のし紙に「〇〇一同」を入れた正式な体裁が釣り合います。注意点は、高額にすれば喜ばれるとは限らないことです。阪急百貨店のコラムも「高額すぎる品物は相手を恐縮させてしまう」としています。お返しが不要な贈り物だからこそ、相手が受け取りやすい金額に収めます。
| 贈る相手・かたち | 目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 上司へ個人で贈る | 5,000円〜20,000円 | ハーモニック・三越伊勢丹・阪急百貨店 |
| 同僚へ個人で贈る | 3,000円~10,000円 | ハーモニック・三越伊勢丹 |
| 部署・有志(一人あたり) | 3,000円〜5,000円(回収なら1,000円〜5,000円程度) | 三越伊勢丹・阪急百貨店 |
| 部署・有志(全体) | 20,000円〜50,000円前後 | 三越伊勢丹 |
| 家族・親族から贈る | 10,000円〜30,000円以上 | 三越伊勢丹 |
渡すタイミングは「送別会か最終出社日」が中心
のし紙を用意する期限は、渡す日から逆算します。三越伊勢丹は「基本は送別会当日か最終出社日」とし、職場では送別会や最終出社日に、個人・有志・部署など関係性に合わせて贈るのが一般的としています。阪急百貨店のコラムも、その方と会う最後の機会、もしくは送別会の場をすすめ、本人の最後の挨拶直後に両手で差し出すとしています。
一方で、自宅へ訪問して渡す場合は考え方が変わります。ハーモニックは、退職の知らせがあった1〜2週間後くらいが最適とし、退職当日は慌ただしいため避けて、辞める数日前までに渡すか、辞めて1〜2週間程度経って生活が落ち着いてから渡すよう案内しています。職場で渡すのか、自宅を訪ねるのかで最適な日が違うということです。
実務上の注意は、名入れの納期です。百貨店で名入れを依頼すると数日かかることがあり、送別会の前日に注文しても間に合いません。逆算すると、送別会の1週間前には品物と表書きを確定させておく必要があります。もう一点、渡すときの言葉にも決まりがあります。ハーモニックは「ご苦労様でした」「つまらないものですが」は失礼にあたるので避けるとしています。「長い間お疲れさまでした」「たいへんお世話になりました」に置き換えます。
お返しは基本不要、現金や商品券は職場の慣習しだい
退職祝いを受け取った側のお返しについては、三越伊勢丹が「退職祝いへのお返しは基本不要」としています。高額な贈り物や個人的な厚意には、後日のお礼状や菓子折りなどで気持ちを伝えるのも一案、という位置づけです。贈る側としては、相手にお返しの負担を感じさせない金額に収めることが、そのまま配慮になります。
現金や商品券を選ぶかどうかも判断が分かれます。三越伊勢丹は「職場の慣習と関係性を確認のうえで検討を。実用的で喜ばれやすい一方、味気なさを感じる方もいます」とし、のし袋やメッセージで温かみを補う、体験ギフトやカタログと組み合わせる等の工夫を挙げています。現金を包む場合はのし紙ではなくのし袋を使い、水引と表書きの考え方は品物と同じです。
逆に、退職する本人が職場に配るお菓子には、のしは基本的に不要です。こちらは挨拶の品なので、体裁を整えるより、配りやすい個包装かどうかが優先されます。予算と品選びの目安は、以下の記事で数字を並べて比較しています。

退職が決まって、やることリストの最後に残りがちなのが「職場に何を配るか」です。引き継ぎ資料は片付いたのに、菓子折り売り場の前で20分立ち尽くしてしまう。人数は何…
退職祝いののし選びのまとめ
退職祝いののし紙で迷ったら、順番に決めていくのが近道です。まず相手の退職理由を確認し、結婚退職でなければ紅白の蝶結びを選ぶ。次に表書きを、相手が目上なら御礼、次のステージがはっきりしているならおはなむけにする。最後に贈り主の人数で名入れを決め、渡し方が手渡しか配送かで内のし・外のしを選ぶ。この4ステップなら、店頭で聞かれても即答できます。
最初の一歩としておすすめしたいのは、送別会の日程が決まった時点で、幹事と表書き案を共有しておくことです。名入れには数日かかる場合があり、表書きの合意が遅れるほど選べる品物が減ります。表書きと名入れさえ先に固まっていれば、品物は当日までに用意すれば間に合います。
なお、贈答のしきたりには諸説あり、各地・各家の伝統やならわしによって異なる場合があります(高島屋のご贈答マナーの注記より)。地域や職場に固有の慣習がある場合は、そちらを優先してください。表書きの表記や名入れの対応可否は変更されることがあるため、購入前に各社の公式サイトでご確認ください。参照した一次情報は高島屋 ビジネスのお祝い ご贈答マナー、高島屋 進物の基礎知識「水引」、高島屋 進物の基礎知識「表書きの書き方」、三越伊勢丹 のし紙とかけ紙の正しいマナー、三越伊勢丹 定年退職プレゼントの選び方、リンベル 退職理由別の熨斗の書き方、ハーモニック 退職祝いをお渡しするときのポイント、阪急百貨店 上司へ餞別を渡すときのマナーです。

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