送別会が近づいて、贈り物は決まった。あとは「のし」を付けるだけ——と思って売り場や通販の入力欄に来たとたん、手が止まる。表書きは「御祝」か「御礼」か、水引は蝶結びか結び切りか、名前は自分ひとりの名前でいいのか。退職という場面は、定年もあれば転職も結婚退職もあり、しかも祝っていいのか迷う辞め方もある。だから、のし紙のルールがひとつに定まらないのです。
結論から言えば、退職の熨斗は紅白5本の蝶結びに「御礼」を選んでおけば、ほとんどの場面で外れません。高島屋のご贈答マナーでも謝礼の掛紙は「のしあり 紅白5本蝶結び」、表書きは「御礼」が筆頭に挙げられています。そのうえで、定年退職なら「御退職御祝」、転職や独立なら「おはなむけ」、結婚退職だけは結び切り、と理由に応じて上書きしていくのが正しい順番です。
この記事では、贈る側(職場から退職者へ)と、辞める本人側(退職者から職場へ)の両方向を分けて整理します。熨斗そのものの意味、水引の本数、表書きの選び方、名入れの並べ方、内のし・外のしの使い分け、そして予算の目安まで、百貨店とギフトメーカーの公式マナーガイドの記述だけを根拠にまとめました。読み終わるころには、注文画面の選択肢で迷う時間がなくなるはずです。
・退職の熨斗は「紅白5本の蝶結び+御礼」が基準になる理由
・定年・中途・転職・結婚退職で変わる表書きの選び分け
・辞める本人が配る菓子折りに熨斗が要る場合と要らない場合
・連名・部署一同・会社名の名入れの並べ方と、内のし/外のしの決め方
退職熨斗の基本は紅白5本の蝶結び|先に決める3つのこと

のし紙の注文で迷うのは、実は「のし」という一語が3つの部品をまとめて指しているからです。熨斗(右上の飾り)、水引(中央の紐)、掛紙(紙そのもの)は、それぞれ別の意味を持ち、別々に選びます。退職の場面で決めるべきことは、この3点に整理できます。
そもそも「のし」はあわびだった|熨斗・水引・掛紙は別の部品
のし紙の右上に付いている小さな六角形の飾り、あれが「熨斗」です。高島屋のご贈答マナーによれば、「のし」とは「のし鮑(あわび)」の略で、贈り物に熨斗を付けるのは、その品物がけがれていないしるしに生ぐさもの(魚・肉)を添えたのが起こりとされています。古来はあわびの身をそいで干したものを添えており、「肴も添えてお贈りします」という意味を表していました。あわびは昔から貴重な食材で、不老長寿の象徴として用いられた食材です。
現在の熨斗は「折り熨斗」といって、紅白の紙を雛人形のように折り、その中に短冊型に切った黄色い紙片を包み込んだ形をしています。本来はこの黄色い紙片がのし鮑にあたります。つまり、あの飾りは装飾ではなく、干しあわびの名残という食品の記号なのです。
この由来を知っていると、退職の場面での判断が一段速くなります。熨斗は慶事の象徴なので、送り出す気持ちを表す退職の贈り物には基本的に付ける。一方で、弔事(仏教)では生ぐさものを断つ、引き伸ばしたくないという意味から熨斗は付けません。退職といっても、体調や不祝儀に近い事情が背景にある場合に「祝い」の記号を前面に出すべきかは、別途考える必要があります。
注意したいのは、この分野に唯一の正解がないことです。高島屋自身も、贈答のマナーやしきたりには諸説あり、各地・各家の伝統やならわしによって異なる場合があると明記しています。以下の内容も「多数派の作法」として読み、職場に長年の慣習があるならそちらを優先してください。
のし紙=のし(のしあわびの意匠)と水引が印刷された贈答用のかけ紙で、慶事に用いるもの。かけ紙(掛紙)=広義の呼び名で、水引のみが印刷された弔事用のものも含む(三越伊勢丹の解説)。高島屋も、弔事のときは熨斗が印刷されていないので「のし紙」とは言わず「掛紙」というと説明しています。退職の贈り物は慶事側なので、正しくは「のし紙」を選ぶことになります。
水引は5本が基本、10本になるのは結婚のときだけ
水引の本数で迷ったら、退職は5本です。高島屋の解説では、水引は5本(3本・7本もあります)まとめたものを1本とし、結納・結婚のときだけ「夫婦水引」といって、夫婦は2人で1組という意味合いから10本にして使う、とされています。両家が合わさるという意味も込められた特別扱いで、逆に言えば10本を使う場面は婚礼関係に限られるということです。
結び方は3種類を押さえれば足ります。蝶結びは片方の水引を引くとほどけ、再度容易に結ぶことができるため、何度も繰り返されてよい場合に使用し、結婚祝いを除くほとんどの慶事と一般贈答に用いられます。結び切り(引き結び)は引いてもほどけない結び方で、二度と繰り返されないようにという意味が込められ、結婚祝いと弔事、そして病気見舞いに使われます。あわび結び(あわじ結び)はどちらの場合にも使える中間の結び方です。
退職はどちらでしょうか。転職も再就職も再びありうる出来事なので、原則は蝶結び。リンベルのマナー解説でも、定年退職は新たな人生のスタートや再就職の可能性を考慮して蝶結びが正解とされています。ただし高島屋の「定年退職」の項目では、掛紙が「のしあり 紅白5本蝶結びまたは結び切り」と併記されています。定年を人生に一度きりの区切りと捉えて結び切りにする考え方も否定されていない、ということです。
迷ったときの実務的な落とし所は蝶結びです。結び切りは「二度とないように」という含意が強く、受け取る側が婚礼や弔事を連想する可能性があります。特に部署一同で贈る場合、判断の理由を全員に説明できないなら、汎用性の高い蝶結びを選ぶほうが説明コストが小さくて済みます。
のし紙と掛紙の呼び分けが、退職の場面で効いてくる
のし紙は品物に直接かけるだけの紙に見えますが、掛け方にも決まりがあります。高島屋によれば、掛紙が裏で重なる場合の合わせは、慶事・一般のときは左を内側に、右を外側に重ねる。弔事では左が外側になります。品物の寸法に合わせて紙の長さを決め、丈が長いときは下側を中に折り込む(基本的に奉書は切らない)、横長の品物の場合は品物の左側を上にして掛ける、といった細部も示されています。
この「右を外側」は、実は自分で用意するときにしか出てこない論点です。百貨店やギフト専門店で購入すれば包装担当者が処理してくれますが、自分でのし紙を印刷して品物に巻く場合は、重なりの向きが逆になると弔事の作法になってしまいます。退職という慶事の場面で気づかれると、意図と真逆の印象を与えかねません。
もうひとつ、リボンとの関係も覚えておくと使えます。高島屋は「リボンを結ぶ場合、リボンと掛紙は併用しない」と明記しています。おしゃれなラッピングのギフトに、丁寧さを足そうとしてのし紙も重ねる——という発想は、作法としては過剰ということになります。どちらかを選ぶのが正解です。
注意点として、掛紙や水引を掛けにくい品物もあります。家具や大型電気製品、生鮮食品などの場合は、ボール紙などを台紙にして奉書や掛紙を巻き、適切な文字を入れて品物の右肩に添える「簡易進物体裁」という方法が示されています。退職記念に大きな品物を贈るケースでは、この選択肢を店頭で相談するとよいでしょう。
表書きは「御礼」で外さない|退職理由で言葉が変わる4パターン
退職の熨斗でいちばん質問が多いのが表書きです。結論は単純で、リンベルのマナー解説にあるとおり基本的に「御礼」としておけばマナー違反にはあたりません。そのうえで、理由がはっきりしている場合に限って、より的確な言葉に差し替えていきます。
定年退職なら「御退職御祝」も「御礼」も選べる
定年退職は、表書きの選択肢がもっとも広い場面です。高島屋のビジネスのお祝いの項目では、定年退職の表書きとして「御退職御祝」「退職之記念」「御定年御祝」「御退官御祝(公務員の場合)」「御挂冠御祝(官職を辞める場合)」「御餞別」「御贐(おはなむけ)」「記念品」「御祝」「御礼」「謹呈(会社や団体からの場合)」が挙げられています。
選び分けの軸は「祝うのか、感謝するのか」です。長年勤め上げた区切りを祝う気持ちを前に出すなら「御退職御祝」や「御定年御祝」。個人としての感謝を伝えたいなら「御礼」。会社や団体として贈るなら「謹呈」。公務員の方であれば「御退官御祝」が用意されている、という具合に、贈り主の立場と気持ちで決まります。
高島屋は定年退職について、最近は定年=リタイヤとは限らず、その会社を定年されても別な所で仕事をする、または新しく事業を始めるなど、贈る方に合わせた品物を贈るとよいとも書いています。表書きも同じで、再スタートを控えている方に「退職之記念」と過去形で締めるより、「御礼」や「おはなむけ」で先を向いた言葉にするほうが受け取りやすい場合があります。
注意点は、同じ「定年」でも本人が望んで迎えたとは限らないことです。役職定年や再雇用の条件に納得していない方に「御祝」と書くと、事情を知らずに祝った形になります。本人の受け止め方が読めないときは、感謝を表す「御礼」に寄せるほうが安全です。
中途退職・転職では「御祝」を避けて「おはなむけ」
中途退職では、表書きの選択が一気に狭まります。高島屋は定年退職の項目に「途中退職の場合、御祝は不適当」と明記しています。リンベルも、うれしい退職理由ばかりではないため、事情を知らない中途退職であれば御祝は避け、「御礼」や「感謝」などねぎらいの言葉を選ぶとよいとしています。
理由は明快で、退職の背景を贈る側が把握できていないからです。転職なのか、家庭の事情なのか、体調なのか、あるいは本人が言いたくない事情なのか。「御祝」という2文字は、そのすべてを「めでたいこと」に塗り替えてしまいます。感謝を表す言葉なら、どの背景でも意味が破綻しません。
一方で、前向きな転職や独立が本人の口から明確に語られている場合は、「おはなむけ」が効きます。リンベルは転職・独立には「おはなむけ」もおすすめとし、旅立つ人の安全を祈る激励の気持ちを表す言葉だと説明しています。高島屋の表記では「御贐(おはなむけ)」。漢字が読みにくいと感じるなら、ひらがなで「おはなむけ」と書いても意味は変わりません。
使い分けの目安はこうです。本人が理由を公表している=「おはなむけ」、公表していない=「御礼」。この一線を引くだけで、表書きで悩む時間はほぼなくなります。デメリットを挙げるなら、「御礼」はどんな場面でも通る反面、印象が平坦になりやすいこと。個別のメッセージカードを添えて補うと、言葉の物足りなさは埋まります。
結婚退職だけは蝶結びではなく結び切り
退職の熨斗で唯一、水引そのものが変わるのが結婚退職(寿退社)です。リンベルは、結婚退職の場合は結婚祝いの意味も含まれるため結び切りの水引を選び、表書きは「御結婚御祝」「寿」とすると説明しています。結び切りは一度結ぶとほどけない結び方で、人生に一度きりのお祝いという意味を持つためです。
本数も変わります。三越伊勢丹のかけ紙の解説では、結婚祝いの「壽」は紅白十本ま結び(結び切り)とされています。高島屋の水引の説明とも一致していて、婚礼関係だけが10本になるという点は主要百貨店で共通しています。つまり結婚退職では、5本蝶結びという退職の基本形から、10本結び切りへ丸ごと入れ替わることになります。
実務で判断が割れるのは、「退職への感謝」と「結婚のお祝い」のどちらを主にするかです。長く一緒に働いた同僚で、退職そのものへの感謝を伝えたいなら「御礼」を紅白5本蝶結びで。門出を祝う気持ちが主なら、結婚祝いとして10本結び切りに「寿」。両方を1枚ののし紙に詰め込むことはできないので、どちらかに決める必要があります。
落とし穴は、結婚と退職の時期がずれているケースです。入籍済みで数か月後に退職する、あるいは退職後に式を挙げる場合、結婚祝いを別途贈っているなら退職の品は「御礼」に戻すのが自然です。同じ相手に短期間で結び切りののし紙を2回渡すと、贈り物が重複している印象になります。
体調を理由に辞める人には、祝う言葉を前に出さない
療養や介護を理由とした退職は、慶事の型をそのまま当てはめない配慮が要ります。この場合も表書きは「御礼」「感謝」が無難で、「御祝」は選びません。高島屋の水引の解説にあるとおり、病気見舞いは結び切りを使うため、贈り物の性格が見舞いに寄るなら、そもそも熨斗の付いたのし紙ではなく水引のみの掛紙が適することもあります。
回復後のやり取りには別の名前が付いています。リンベルの解説では、体調が回復してからのお祝いは「快気祝い」と呼ばれ、体調の回復や退院後の現状を知らせる意味が含まれるとされ、一時的な退院や自宅療養への切り替えの場合には「快気内祝い」として贈るとされています。退職の贈り物とは目的が違うので、混同しないことが大切です。
判断に迷う場面では、のし紙をやめる選択も現実的です。三越伊勢丹の解説には「包装のみ(慶事用)」という選択肢があり、包装紙で丁寧に包み、のしやリボンは使用しない扱いが用意されています。形式を整えるより、相手の状況に負担をかけないことを優先する、という判断ができるわけです。
注意すべきは、こうしたケースこそ職場内で対応がばらつきやすいことです。ある人は「御祝」で贈り、別の人は掛紙なしで渡す、という状態は受け取る側を戸惑わせます。部署としての贈り物なら、幹事が表書きを1つに決めて全員に共有しておくほうが親切です。
| 場面 | 水引 | 表書きの例 |
|---|---|---|
| 定年退職を祝う | のしあり/紅白5本蝶結び(結び切りの記載もあり) | 御退職御祝・御定年御祝・退職之記念 |
| 中途退職・理由が不明 | のしあり/紅白5本蝶結び | 御礼・感謝(御祝は不適当) |
| 転職・独立の門出 | のしあり/紅白5本蝶結び | 御贐(おはなむけ)・御礼 |
| 結婚退職 | のしあり/紅白十本ま結び(結び切り) | 寿・御結婚御祝 |
| 会社・団体として贈る | のしあり/紅白5本蝶結び | 謹呈・記念品 |
| 退職者が職場へ配る | のしあり/紅白5本蝶結び(無地のしも可) | 御礼・粗品・松の葉 |
表書きは「贈る側の立場」で変わります。個人として渡すなら「御礼」、会社や団体として渡すなら「謹呈」。同じ品物でも、贈り主が個人か組織かで適した言葉が入れ替わるため、注文前に「誰の名前で贈るのか」を先に確定させてください。なお贈答の作法は地域や職場の慣習によって異なる場合があります。
辞める本人が配る菓子折りに、熨斗は必要か

ここから向きが変わります。退職する本人が、職場へ感謝の品を配る側のケースです。贈る相手が「お世話になった全員」になるため、贈り物としての性格も、のしの扱いも、退職祝いとはまったく別物になります。
職場に配る菓子折りの表書きは「御礼」
退職者が職場へ配る品は、お祝いではなく謝礼です。高島屋の謝礼の項目では、お世話になった方へ心ばかりのお礼をする場合の掛紙は「のしあり 紅白5本蝶結び」、表書きは「御礼」「謝礼」「謹謝」「寸志(目下の方へ贈る場合)」「薄謝」「無地のし」と示されています。好適品は菓子などの食品や家庭用品。退職時の菓子折りは、この型にそのまま当てはまります。
実務で選ばれやすいのは「御礼」です。「謹謝」は硬すぎて社内向けには重く、「薄謝」は目下の方へちょっとしたお礼やお返しに現金を贈る場合に使われることが多い言葉なので、菓子折りには合いません。名入れは、のしの下段に自分の名前を書きます。姓だけでも通じますが、同姓が複数いる職場ではフルネームのほうが親切です。
手土産寄りの表書きにする手もあります。高島屋の粗品・手土産の項目では、「粗品」は目上の方へのささやかな品物に使い、へりくだった意味なので高価で立派な物には使用しない、と説明されています。「松の葉」「みどり」は、松の葉に包むほど僅かであるという意味で「ほんの手土産」を表し、目下の方への贈り物に使うとされています。上司にも部下にも同じ箱を配る退職の場面では、上下を選ばない「御礼」が扱いやすい理由がここにあります。
注意点は、表書きを丁寧にしすぎると距離感が出ることです。毎日顔を合わせていた同僚に「謹謝」ののし紙が付いた箱が置かれると、感謝より形式が前に立ちます。関係性が近いほど、のしは簡素にしてメッセージで補うほうが伝わります。
個包装を1人ずつ配るなら熨斗はいらない
のしを付けるか付けないかは、配り方で決まります。ギフト解説サイトGIFTFULの整理では、退職時のお菓子はのしを付けても付けなくてもよく、直接手渡す場合や共有スペースに置く場合はのしは必須ではないとされています。箱を開けて中身を配ってしまうなら、外箱ののし紙は誰の目にも触れないまま捨てられるからです。
逆に、のしが効くのは「箱のまま置く」ときです。休憩室のテーブルに置いて自由に取ってもらう、他部署へ箱ごと届ける、上司に個別に手渡す——このいずれかなら、紅白の蝶結びに「御礼」と自分の名前が入っているだけで、誰からの何なのかが説明なしで伝わります。前掲の解説でも、のしを付ける場合は紅白の蝶結びに「御礼」と書くとされています。
表書きの言葉は少し柔らかくしても構いません。同じ解説では「御礼」が一般的としつつ、「感謝」「ありがとう」「お世話になりました」なども使われるとされています。堅い職場でなければ、平仮名混じりの言葉のほうが受け取りやすいこともあります。
デメリットも押さえておきましょう。のしを付けると、包装をほどく手間が発生します。最終出勤日の慌ただしい時間帯に配る場合、外箱を開けてすぐ配れる状態のほうが実務的です。形式と手軽さのどちらを取るかは、職場の空気で決めてよい部分です。
予算は1人100円〜300円、20人の職場なら3,000円が目安
菓子折りの予算は、退職祝いとは桁が変わります。GIFTFULの解説では、1人当たり100円〜300円程度が目安、高くても500円ほどとされ、20人ほどの職場であれば全体で3,000円、30人の職場であれば全体で4,500円ほどという計算例が示されています。数十人の部署にまとめて配る場合は総額2,000円〜5,000円程度で考えるとよい、という目安も併記されています。
この金額帯が推奨されるのは、受け取る側に気を使わせないためです。1人あたり500円を超える品を全員に配ると、もらった側が「何かお返しをすべきか」と考え始めます。退職の挨拶は感謝を伝える場であって、負担を残す場ではありません。同じ解説でも、あまり高級すぎても逆に気を使われてしまうため、無理のない範囲で予算を設定することが推奨されています。
選ぶ基準は価格より形状です。個包装で日持ちするものを選び、職場で食べにくいものや好みが分かれる味は避ける、というのが共通の指針です。デスクで片手で食べられて、粉が飛ばず、常温で数日持つ焼き菓子が定番になっているのは、この条件をすべて満たすからです。
配る範囲も先に決めておきましょう。所属部署の全員と、特にお世話になった人が基本で、最低でもチーム全員には配る、とされています。範囲が決まれば人数が決まり、人数が決まれば1人あたりの単価から総額が決まります。順番を逆にして、先に商品を決めてから人数を数えると、個数が足りずに買い直すことになりがちです。

退職が決まって、やることリストの最後に残りがちなのが「職場に何を配るか」です。引き継ぎ資料は片付いたのに、菓子折り売り場の前で20分立ち尽くしてしまう。人数は何…
失敗パターン①:自分で配る品に「御祝」と書いてしまう
実際によくある取り違えが、退職者本人が配る菓子折りに「御祝」や「御退職御祝」と書いてしまうケースです。原因は単純で、通販サイトの「のし」選択欄が退職祝いの用途名で並んでいて、そのまま選んでしまうことにあります。しかし「御退職御祝」は、周囲が退職者を祝うための表書きです。自分の退職を自分で祝う形になってしまいます。
対策は、注文画面に入る前に贈り主と受け取り手を言語化することです。「自分(退職者)→職場のみなさん」なら謝礼なので「御礼」。「職場のみなさん→退職者」なら祝いまたは感謝なので「御退職御祝」または「御礼」。矢印の向きを紙に書いてから選択肢を見ると、間違えようがありません。
もう1つの取り違えは、水引を結び切りにしてしまうパターンです。結び切りは二度と繰り返されないようにという意味を持つため、日常的な謝礼には合いません。職場への感謝は何度伝えてもよいものなので、蝶結びが正解です。
すでに注文してしまった場合の対応も現実的に考えておきましょう。多くのギフト店では出荷前ならのしの変更を受け付けています。間に合わない場合は、のし紙を外して包装のみで渡し、手書きのメッセージカードを添えるほうが、誤った表書きのまま渡すより印象が整います。
名前はどこに、誰から書く?連名と一同の分かれ目
表書きが決まったら次は名入れです。ここは「贈り主が何人か」で書き方が段階的に変わります。人数の境界線さえ覚えれば、迷う余地はほとんどありません。
個人はフルネーム、目下の相手には姓だけでも通る
個人で贈る場合は、上段の表書きに対して下段に小さめに氏名を書きます。高島屋の表書きの解説では、目下の人には姓だけでも構わないとされていますが、目上の方や改まった場面ではフルネームが基本です。三越伊勢丹の解説でも、個人で贈る場合や目上の方への贈答はフルネームで記名するのが丁寧とされています。
文字の大きさにも決まりがあります。表書きは水引の上段中央に、氏名は下段にやや小さめに。表書きと同じ大きさで名前を書くと、贈り物の目的より贈り主が主張して見えます。書き出しの位置は、書く文字の大きさに合わせて上から一字分ほど空け、最後の字と水引の間にも一文字分の空白ができるようにする、というのが高島屋の示す配置です。
退職の場面では、同じ部署に同姓が複数いることが珍しくありません。「佐藤」「田中」といった姓だけの名入れだと、受け取った側が誰からの品か特定できないことがあります。送別会で複数の贈り物が並ぶ場面ならなおさらで、フルネームにしておくと後から整理する側の手間が減ります。
注意点は、旧姓や通称の扱いです。結婚後も職場で旧姓を使っている場合、のし紙に戸籍上の姓を書くと、退職者が誰の贈り物か分からないという事態が起こります。名入れは「相手が認識している名前」で書くのが実用的です。
連名は3名まで、右から目上順に並べる
複数人で贈る場合、連名で書けるのは3名程度までです。高島屋は、連名の場合は目上の人の名前を右から左へ順に書き入れ、連名で3名程度までとする、としています。三越伊勢丹も、連名は立場や年齢の高い方を中央から左へ順に書き、一般に3名程度までが見栄えよいとしています。リンベルの退職祝いの解説では、3名までは目上の人を中央に、左に順に並べると説明されています。
各社で「右から」「中央から」と表現が分かれていますが、実質は同じです。3名なら中央が最上位、その左に2番目、さらに左に3番目。2名なら右が上位、左が下位。右または中央が上位という原則さえ押さえておけば、並べ方を間違えることはありません。
この順序は、退職の場面では特に注意が要ります。同期3人で贈るなら年齢順でも入社順でも角は立ちませんが、課長・主任・一般社員の3人で贈るなら役職順が自然です。役職を無視して五十音順に並べると、社内の序列を知る人が見たときに違和感が残ります。
デメリットもあります。連名は誰が贈ったかが明確になる反面、書かれなかった人が「自分は入っていない」と可視化されてしまいます。チーム全員でお金を出し合ったのに3人分しか書けない、という状況では、次の「一同」表記に切り替えるほうが公平です。
4名以上は「〇〇一同」、氏名は紙にして中へ
贈り主が4名以上になったら、個人名を並べるのはやめます。高島屋は、贈り主が連名で多人数の場合は会社名・部署名・グループ名など「〇〇一同」と書くとし、「有志一同」と書く場合は全員の氏名を書いた紙を中に入れるとしています。リンベルも4名以上は「○○一同」「○○有志一同」と一行で記載するとしています。
「一同」と「有志一同」の違いは、参加範囲です。部署の全員が参加しているなら「営業部一同」。参加を募って集まった人だけなら「営業部有志一同」。後者は全員参加ではないことを示すので、参加しなかった人が気まずくならないという実務上の利点があります。
代表者名を出す方法もあります。高島屋の解説では、代表者を中央に太く書き、左側に外(他)一同と小さく入れて、他の人の氏名を書いた紙を中に入れるという書き方が示されています。三越伊勢丹も、人数が多い場合は代表者名+「他一同」とする方法が一般的としています。幹事の名前を明示したいときはこの形です。
注意点は、氏名を書いた紙を省略しないことです。「一同」だけでは、退職者は誰に礼を言えばよいか分かりません。参加者の名前を書いた紙を同封するか、メッセージカードに全員の署名を入れるか、どちらかは必ず添えるべきです。ここを省くと、丁寧に見えて実は情報の欠けた贈り物になります。
会社名・肩書きは名前の右に小さく
取引先の担当者が退職する場合など、会社名を入れる場面もあります。高島屋の解説では、会社名・肩書き・住所などを入れる場合は名前の右側に小さめに記入するとされています。リンベルの退職祝いの解説では、社名を入れる場合は社名と部署名(または氏名)を2行で、部署名(または氏名)を大きく記載するとされています。三越伊勢丹は、企業で贈る場合は会社名を中央に記すとしています。
整理すると、主役をどれにするかで書き方が決まります。個人が会社の看板を背負って贈るなら、名前が主役で会社名は右に小さく。会社そのものが贈り主なら、会社名が中央。この2パターンを取り違えると、個人の贈り物なのか会社の贈答なのかが読み取れなくなります。
取引先へ会社として贈るなら、表書きも変わります。高島屋の定年退職の表書きには「謹呈(会社や団体からの場合)」が挙げられており、謹呈は「謹んで差し上げます」という気持ちで品物を贈る場合、目上の方や社会的立場の違う方に贈る場合に使用するとされています。社名入りののし紙には、この表書きが収まりよく合います。
略式として名刺を貼る方法もありますが、高島屋は名刺を貼る場合はあくまで略式で、左下に貼るのが一般的としています。急ぎで手配した贈り物には使えるものの、退職という節目には正式な名入れのほうがふさわしい場面が多いでしょう。
| 贈り主 | 1〜3名 | 4名以上 | 会社・団体 |
|---|---|---|---|
| 書き方 | 氏名を連名。右または中央が上位 | 「〇〇一同」「〇〇有志一同」を一行で | 会社名を中央、または名前の右に小さく社名 |
| 氏名の紙 | 不要 | 有志一同・他一同なら全員の氏名を書いた紙を中に入れる | 担当者名を別途添えると連絡が取りやすい |
| 向く表書き | 御礼・御退職御祝・おはなむけ | 御礼・記念品 | 謹呈・記念品 |
内のしと外のしを取り違えると、意図が伝わらない
注文画面の最後に出てくる選択肢が「内のし/外のし」です。仕上がりの見た目が変わるだけに見えますが、実際には贈り物の意図の出し方が変わります。退職の場面では、渡し方で機械的に決められます。
包装紙の内側か外側か、それだけの違い
定義はシンプルです。リンベルの解説では、内のしは贈答品に直接のし紙をかけ、その上から包装紙で包む方法、外のしは包装紙で包んだ上からのし紙をかける方法とされています。つまりのし紙が包装紙の内側にあるか外側にあるかの違いです。
この位置の差が意味の差になります。内のしは包装紙を開けるまで表書きが見えないため、贈り物の目的を控えめに伝えることになり、自分側の喜びをお裾分けする「内祝い」の意味合いに適するとされます。外のしは表書きが見えやすく、贈り物の目的や贈り主が一目瞭然になるため、相手を祝う気持ちをはっきり示す場面に向きます。
退職の贈り物は、圧倒的に外のしが向く場面です。送別会で本人に手渡す、最終出勤日にデスクへ届ける——どちらも、渡した瞬間に「これは退職のお祝いです」と伝わったほうが場が成立します。表書きが見えなければ、開けるまで何の品か分からず、その場でのやり取りが噛み合いません。
ただし例外もあります。同じ日に複数の人から贈り物が集まる場合、外のしは誰から何をもらったかを整理するのに役立つ一方で、金額感や表書きの差が並んで見えてしまうこともあります。部署内で贈り物が重なると分かっているなら、幹事が形式を揃えておくと差が目立ちません。
手渡しなら外のし、配送なら内のし
判断に迷ったら、渡し方で決めるのが最短です。三越伊勢丹の解説では、手渡しの場合は外のしが礼儀とされ、配送や宅配で贈る場合は配送伝票によりのしが汚れたり剥がれたりするため、箱にのしをかけてから包装する内のしが一般的とされています。リンベルも、宅配便での配送では配送途中でのし紙が傷つくのを防ぐため内のしが推奨されるとしています。
退職の贈り物は、手渡しできるとは限りません。すでに退職日を過ぎている、リモート勤務で顔を合わせる機会がない、遠方へ転居した——こうした場合は自宅へ配送することになり、そこでは内のしを選びます。伝票やテープでのし紙が傷むリスクを避けるためで、格を下げる選択ではありません。
もう1つ考慮したいのが、贈り物が家族の目に触れるかどうかです。自宅へ届く品は家族が受け取ります。外のしで「御退職御祝」と大書きされた箱が届くのが気まずい事情がある場合、内のしにしておけば包装を開けるまで表書きが見えません。控えめであることが配慮になる場面は確かにあります。
注意点は、店側の初期設定が用途によって決まっていることがある点です。通販の注文画面では、内祝い系の用途を選ぶと内のしが既定になっていることがあります。退職祝いを手渡しで贈るつもりなら、外のしが選ばれているかを注文確定前に確認してください。
短冊のしと無地のしという第3の選択
のし紙を全面にかけるほどではない、という品もあります。そのときに使えるのが短冊のしです。包装資材メーカーのシモジマの解説では、短冊のしは品物の高さに対して3分の2程度の長さのものを使用するのが目安とされ、贈答品の右上に貼り付けて使用します。無地タイプのほか、慶事用・弔事用の表書きが入ったタイプもあります。
短冊のしは略式です。サイズが小さいだけで役割は通常ののし紙と同じですが、形式や礼儀を重んじる場面では通常ののし紙を選ぶほうが無難とされています。上司の定年退職に部署一同で贈る記念品には正式なのし紙、同期の転職祝いの小箱には短冊、といった使い分けが現実的です。
表書きを入れたくない場合は「無地のし」という選択もあります。三越伊勢丹の解説では、無地のしは紅白五本もろわな結び(蝶結び)の水引がかかったお包みで、ちょっとした贈り物や手土産に年間を通じて使えるとされています。ただし婚礼、病気見舞い、弔事には使用できません。退職者が職場へ配る菓子折りで、表書きの言葉選びに迷ったときの逃げ道になります。
近い言葉に「こころばかり」もあります。「わずかなものですが」という気持ちを伝えたいときのかけ紙で、相手に負担をかけたくないときに用いるとされています。退職の挨拶回りで小さな品を配るとき、「御礼」より肩の力が抜けた印象になります。

退職祝いを買うところまでは決まったのに、レジ前で「のしはどうされますか」と聞かれて手が止まる。表書きは「御祝」でいいのか、「御礼」なのか。水引は蝶結びなのか結び…
退職熨斗でやりがちな失敗と、その原因
ここまでの内容を踏まえたうえで、それでも起きやすい取り違えを整理します。いずれも「知らなかった」というより、選択肢を目にした瞬間に反射で選んでしまうことが原因です。
失敗パターン②:「御餞別」を上司に使ってしまう
高島屋の定年退職の表書き一覧には「御餞別」が含まれています。それを見て上司の退職祝いに「御餞別」と書く——これが2つ目の失敗パターンです。リンベルの餞別の解説では、「御餞別」は目上の方への使用は失礼にあたるとされ、代わりに「おはなむけ」「御礼」「御祝」の表書きを使用するとされています。
原因は、餞別という言葉に含まれるニュアンスです。餞別は本来「今までお世話になった方が旅立つときに、これまでの感謝の意と前途を祈る気持ちを込めて贈る金品」を指しますが、対等または目下の相手へ贈るという語感を伴うと解説されています。同僚同士なら問題なくても、部下から上司へ差し出す紙に書く言葉としては据わりが悪いわけです。
同じ理由で「寸志」も注意が必要です。高島屋の解説では、寸志は目下の方へ金品を贈る場合に使われ、目下といっても年齢ではなく公的な関係で上下関係にある場合に使用するとされています。送別会の会費を包むときに反射的に「寸志」と書いてしまう人がいますが、相手が上位者なら「御礼」に置き換えるのが無難です。
対策はひとつで、相手が自分より上位なら「御礼」か「おはなむけ」に固定すること。表書きの選択肢が10種類以上あっても、上下関係で1つに絞り込めば迷いは消えます。同僚・部下であれば選択肢はもう少し広く取れます。
四文字の表書きが「死文字」と受け取られることがある
もうひとつ、年配の方に贈るときに知っておきたいのが文字数です。高島屋の表書きの解説では、四文字の表書き(「入学御祝」「快気内祝」「還暦御祝」など)は「死文字」といって気にされる方もいると説明されています。対応として、「御入学御祝」のように五文字にする、「御祝」の右肩に「御入学」を小さく書いて二行にする、といった方法が示されています。
退職に当てはめると、「退職御祝」は四文字です。「御退職御祝」なら五文字になり、この配慮を満たします。高島屋の定年退職の表書き一覧に「御退職御祝」「御定年御祝」といった五文字の形が並んでいるのは、この考え方が反映された結果と読めます。
この作法をどこまで重く見るかは、贈る相手によって変わります。定年退職を迎える年代の方や、格式を重んじる取引先には配慮しておくほうが安全です。一方で、20代の同僚の転職祝いに文字数を気にする必要はほとんどありません。相手が気にする可能性がある場面だけ、五文字に整えれば十分です。
注意しておきたいのは、五文字にすればバランスが崩れやすくなることです。高島屋は、文字数が多く字が水引にかかるような場合はもっと上から書き出しても構わないとしています。手書きする場合は、書き始める前に文字数を数え、上下の余白を配分してから筆を入れてください。
書き損じを修正液で直す・ボールペンで書く
自分で書く場合の失敗は、筆記具と修正の2点に集約されます。高島屋の解説では、表書きは毛筆で書くのが正式で、万年筆・ボールペンは避け、楷書が一般的とされています。三越伊勢丹も、筆記具は毛筆や筆ペンが望ましく万年筆やボールペンは避けるとしています。
書き損じたときの対応も決まっています。リンベルの退職祝いの解説では、修正液や二重線は非礼にあたるため、新しく書き直すのがマナーとされています。のし紙は消耗品なので、書き損じる前提で予備を用意しておくのが現実的です。手書きに自信がないなら、店頭で毛筆書きを依頼する、または印字サービスを使うほうが結果的に整います。
墨の濃さにも意味があります。弔事は悲しみの涙で薄れているという意味、または悲しみの気持ちは早く薄らいでほしいという意味で薄墨を使うとされています。退職は慶事側なので、濃い墨ではっきり書きます。薄い筆ペンしか手元にないという理由で薄墨を使うと、意図しない意味が乗ってしまいます。
地域差もあります。高島屋は、和歌山・泉州地方や三重県の一部では慶事について朱色の墨で書く地区があると記しています。全国共通の作法として書き分けを断定できる領域ではないため、地元の慣習が強い職場では、周囲の年長者に一度確認するのが確実です。
実は、熨斗を付けないほうが正しい場面がある
意外と知られていませんが、丁寧にしようとして熨斗を付けることが、かえって作法から外れる場面があります。高島屋の熨斗の解説では、鮮魚や肉を贈る場合は生ぐさが重複するので熨斗は付けないとされています。熨斗はもともと干しあわびという生ぐさものの象徴なので、生ものに生ものを重ねる形になるためです。その代わりに笹の葉を敷くという扱いも示されています。
退職の贈り物で高級な肉や魚介を選ぶことはあります。そのときにのし紙を付けるかどうかは、店の判断に委ねられる部分もありますが、由来を知っていれば「付けないのが正式です」と言われても慌てずに済みます。なお現在は、中元・歳暮・内祝などで生ぐさものを贈る場合にも熨斗を付けているとも併記されており、実務上は柔軟に運用されています。
もうひとつ、贈る側または贈られる側が喪中の場合も熨斗を外します。郵便局のネットショップのマナー解説では、どちらかが喪中である場合は白無地のしや短冊を使い、紅白の水引は避けるとされています。退職と不幸が重なるケースは珍しくないので、この判断軸は覚えておく価値があります。
そして最後は、冒頭にも触れた「配ってしまう菓子折り」です。箱を開けて中身を1人ずつ配るなら、のし紙は誰の目にも触れません。形式を整えることが目的化して、封を切って捨てるだけの紙にコストと時間をかけていないか。付けるか付けないかは、その紙が誰かに読まれるかどうかで判断すると合理的です。
「御餞別」「寸志」「粗品」「松の葉」は、いずれも目下または対等な相手へ向けた言葉として説明されています。上司・恩師・取引先の担当者など目上の方に贈るときは、これらを避けて「御礼」「おはなむけ」「謹呈」から選んでください。なお、これらの位置づけは地域や職場の慣習によって異なる場合があります。
熨斗を用意する前に決めておく予算と段取り
のし紙は、贈り物が決まってから最後に付けるものです。裏を返せば、予算と品物と渡し方が固まっていないと、のしの選択肢も決まりません。ここでは順番を逆にたどって、先に決めるべきことを整理します。
個人で贈るなら上司へは5,000円から
個人で退職祝いを贈る場合の目安は、相手との関係で変わります。ギフト解説サイトの情報では、上司へは5,000円〜10,000円、同僚・部下へは3,000円〜5,000円が目安とされています。餞別として渡す場合は、リンベルの解説で同僚へは3,000円〜10,000円、上司へは5,000円〜20,000円という幅が示されています。いずれも各社が示す目安であり、実際の金額は関係性によって上下します。
この幅の中で位置を決める基準は、勤続の重なりと日常の関わりです。10年以上同じチームで働いた上司と、部署が違って年に数回話した程度の先輩とでは、同じ「上司」でも適正が変わります。金額を上げれば気持ちが伝わるわけではなく、相手が受け取りやすい範囲に収めることのほうが重要です。
のしとの関係で言えば、金額が上がるほど正式な形が求められます。数千円の品なら短冊のしでも成立しますが、10,000円を超える記念品に略式の短冊は釣り合いません。予算を決めた時点で、のしの形式もおおむね決まると考えてよいでしょう。
注意点は、個人で高額を贈ると相手に負担が残ることです。退職後にお返しを考えさせてしまう金額は、感謝ではなく宿題になります。相手に負担をかけないよう相場を大きく超えないことが配慮とされる、という指摘はここに理由があります。
部署一同なら1人1,000円から集める
複数人でお金を出し合う場合、1人あたりの目安は1,000円〜3,000円、合計で10,000円〜20,000円程度になることが多いとされています。人数が多い部署なら1人1,000円でも十分な総額になり、少人数のチームなら1人3,000円で同じ水準に届きます。
連名で贈るメリットは、1人あたりの負担を抑えたまま、個人では手が届かない品を選べることです。カタログギフトや記念品など、単価が上がるほど選択肢の質が変わるジャンルでは、この効果がはっきり出ます。のし紙には「〇〇一同」と書き、全員の氏名を書いた紙を中に入れれば、贈り主の情報も落ちません。
デメリットは、集金と意思決定の手間です。参加者が増えるほど品物選びの合意形成に時間がかかり、締切間際になって「のしはどうする」という論点が残りがちです。幹事を立てて、品物・表書き・名入れ・渡し方の4点を先に決めてしまうと進行が早くなります。
金額の集め方にも配慮が要ります。全員に一律で求めると、事情のある人が断りにくくなります。「有志一同」という形にして参加を任意にすれば、参加しない選択も取りやすくなります。表書きに「有志」の2文字を入れるかどうかは、実は職場の空気にも関わる判断です。
定年退職の記念品は20,000円台から30,000円が目安
定年退職の記念品として部署や会社から贈る場合、20,000円〜30,000円という目安が示されています。長年の勤続に対する区切りの品という位置づけで、個人で贈る退職祝いとは桁がひとつ変わります。この価格帯なら、記念に残る形のある品も、選ぶ楽しみのあるカタログギフトも選択肢に入ります。
高島屋の定年退職の項目では、好適品として趣味・レジャー用品などが挙げられています。定年後の時間の使い方に沿った品ということです。ただし同じページには、最近は定年=リタイヤとは限らず、別の場所で働く方や新しく事業を始める方もいるため、贈る方に合わせた品物を贈るとよいという注意も添えられています。
この価格帯ののしは、正式なのし紙に「記念品」「謹呈」「御退職御祝」のいずれかが収まります。会社名で贈るなら「謹呈」、部署一同なら「記念品」または「御退職御祝」。名入れとの組み合わせで、贈り主が組織か有志かがはっきり伝わる形にしておきましょう。
注意すべきは、形に残る品が必ずしも喜ばれるとは限らないことです。置き場所を選ぶ大きな置物や、好みの出る趣味の道具は、受け取る側が扱いに困ることがあります。この点で選択を相手に委ねられるカタログギフトは合理的ですが、選ぶ楽しみがある一方で、手渡しの温かみは薄れるという妥協点もあります。
渡すタイミングは最終出勤日か送別会
渡す日が決まると、のしの形式も自動的に決まります。退職祝いは最終出勤日か送別会で手渡しするのが最も一般的とされており、手渡しなら外のし一択です。逆に、退職日を過ぎてから自宅へ送るなら内のしになります。
段取りとしては、送別会の日程が決まった時点で逆算します。名入れやのし書きを店に依頼する場合、当日仕上げに対応していない店もあるため、品物の手配は数日の余裕を見ておくのが安全です。参考までに、高島屋は昇進・栄転の祝いについて、知らせを聞いて早い時期(1週間前後)に贈るとしています。退職も、知らせを聞いてから動き出すまでの目安として近い感覚で考えられます。
渡す場面での作法も、のしの形式と連動します。外のしなら表書きが見えているので、紙袋から出して両手で渡すだけで意図が伝わります。内のしの品を手渡す場合は、「退職のお祝いです」と一言添えないと、開けるまで何の品か分かりません。
注意点は、送別会が本人不在で進むケースがあることです。急な退職や体調による退職では、送別会自体が開かれないこともあります。その場合は自宅への配送に切り替え、内のしにしてメッセージを同封する——という代替案を、最初から想定しておくと慌てずに済みます。

訪問の予定が決まった瞬間に、頭をよぎるのが「いくらのものを、どう持って行けばいいのか」という問題です。引っ越しのご近所回り、結婚の報告、取引先への初訪問——同じ…
まとめ|のしは「誰が・誰に」を決めれば迷わない
最初の一歩は、注文画面を開く前に矢印を1本書くことです。「職場一同 → 部長」なのか「自分 → 職場のみなさん」なのか。この向きが決まれば、表書きは祝いか謝礼かに絞られ、名入れは個人か一同かに絞られ、水引は結婚退職かどうかだけ確認すれば決まります。品物選びに時間をかけた分、のしで迷って締切に追われるのはもったいないところです。
※本記事の作法は高島屋・三越伊勢丹・リンベル・郵便局のネットショップ等が公開するマナーガイドの記載に基づいています。贈答のしきたりには諸説あり、地域や職場、各家の慣習によって異なる場合があります。金額の目安も各社が示す参考値です。
【参考にした一次情報】
高島屋「進物の基礎知識 熨斗(のし)」
高島屋「ビジネスのお祝い(定年退職の掛紙と表書き)」
三越伊勢丹「のし紙とかけ紙の正しいマナー」
リンベル「退職理由別の退職祝い・熨斗の書き方・水引の選び方」

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